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太田基裕(栗栖秀太郎 役)インタビュー

―― 今作はロックミュージカル、生バンドでの上演です。
太田 非常に期待しています! その日毎の機微や温度感が出ると思いますので、その辺りを楽しみながら作品を作っていければ。そうしていくことで作品もさらに深まるのではないかと思っています。
―― 生演奏の舞台は何度か経験されているかと思いますが、その醍醐味というと?
太田 やはり日々違うところですね。テンポやタイミングのちょっとした変化。その瞬間、瞬間を味わえるというところが楽しいです。「生演奏っていいなあ~!」と、やる度に思います。生身の人間が舞台上で演じるお芝居に全く同じものがないことと同様に、演奏者の方も生身で舞台上にいらっしゃる以上、その時にしか出せないものがあると思うんです。その時間と空間を共有しながら一緒に作品を作っていくという面では、音源の上に乗せて歌う時より深みが増す感覚がありますし、僕はそこに面白みを感じます。
―― 作品についてお聞きしていきます。『MARS RED』という作品の印象は?
太田 「大正時代」の空気、大正ロマンと言われるような文化の匂いや大正デモクラシーと呼ばれる時代のうごめきがある中に、「ヴァンパイア」という特殊かつ洋風な要素も含まれていて、とても盛りだくさんの内容だなと思いました。この言い方が正しいか分かりませんが、アングラ的な雰囲気もありますよね。そういったダークさを感じさせるようなテイストも舞台上でオシャレかつ繊細に出していけたらいいなと思いました。
―― さらに幻想的な美しさも感じられる作品。太田さんがこれまで演じてきたキャラクターも耽美さを備えた役どころが多かったように思いますが。
太田 うーん、どうでしょう(笑)。確かに演じたこともありますが、自分としては多いという感覚はないですね。そういった雰囲気は衣裳や舞台美術、とりわけ楽曲などに依るところも多いと思うので。今は楽曲への期待が増すばかりです!
―― 太田さんは名作ミュージカルから2.5次元舞台まで様々な作品に出演されていて、楽曲のジャンルも幅広く歌いこなされている印象があります。
太田 いやいや、ただ必死にやっているだけです! 歌いこなせているかどうかは……。歌は自分で歌うより聴く方が断然好きなんですよ。もちろん歌うのが嫌いなわけではないのですが、ミュージカルや舞台で歌う場合は好き勝手にはできないですし、どうしても責任感が伴いますよね。どう向き合えばいいのか常に考えなくてはいけないところがあるので、人が歌う楽曲を聴いている方が……楽です(笑)。
―― ロックというジャンルに関してはいかがですか?
太田 ロックは昔から大好物です!“ロックミュージカル”と名の付く作品にも何度か出ているので、縁がありますね。その意味では今作も馴染みがある、と言えるかもしれません。
―― 音楽担当は数々の映像・舞台で活躍されているYOSHIZUMIさんです。
太田 僕はシリーズ物のミュージカルでお世話になっています。YOSHIZUMIさんが作曲された曲を歌う機会も多かったのですが、YOSHIZUMIさんの楽曲は「ミュージカルとして良い感じにメロディが入ってくる」という感覚がありました。『MARS RED』でもご一緒できると知った時はすごく嬉しかったですし、ますます楽しみになりました。前の現場での話になりますが、YOSHIZUMIさんは稽古場にも頻繁に顔を出してくださる方だったので、僕らからも「ここをもっとこうしたい」といったリクエストを伝えられたりもして、しっかりしたコミュニケーションを取ることができていたんです。何でも言い合える関係性があるので心強いですし、今作でも細かい部分まで調整できたらいいなと思います。
―― そして振付担当は太田さんと共演されたこともある良知真次さん。
太田 今作の取材で久々にお会いしたのですが、振付に関しては「お手柔らかに……」とお願いしています。……と言いつつも、良知さんの手掛けられる振付は大変楽しみですし、挑戦も含めて頑張っていければと思います!
―― キャスト陣も歌・ダンス・芝居全てにおいて定評のある方々が集結しています。太田さんと共演経験のある方も多数いらっしゃいますね。
太田 はい。でも久々の共演となる方が多いので、昔の自分を知られているという部分ではどこか恥ずかしさもあります。頑張らなくては、という焦りを感じますね(笑)。タケウチ役の平野良くんやナンバ役の山本一慶くんと共演するのは久しぶり。天満屋慎之助役の松井勇歩くんも知っていますし、デフロット役のKIMERUさんとは良知さんとご一緒していた作品で共演していて、スワ役の糸川耀士郎くんとはついこの間、共演していました。前田義信役の中村誠治郎さんとは動画番組で昔ご一緒したことがあるだけなので、今回が初めてのお芝居になると思います。面識のあるメンバーと初対面の方、半々くらいの印象です。
―― 脚本・演出の西田大輔さんとは初めまして?
太田 そうです。新たな出会いになりますね。色々な噂は耳にしていて……と言ったら妙な印象を与えてしまうのですが(笑)、上演時間が長くなる方だとは聞いています。それは描きたいことがたくさんある方だからなのだろうと思いましたし、役者がやるべきことも必然的に多くなるのではないかなと思ったので、ちょっとドキドキしています(笑)。今回の『MARS RED』の初稿も届いているのですが、TVアニメ版のストーリーを踏襲しつつオリジナルな部分も入っていて。全ての要素をギュッと詰め込んだ上でオリジナルを入れていくということは、より見応えが増すものになるのかなと。西田さんがこの作品をどういう感じで作っていかれるのか、未知さを楽しみにしています。
―― 未知のものには積極的に飛び込んでいかれるタイプですか? 初めましての方との距離の縮め方などをお聞きしたいです。
太田 僕、初対面の方とコミュニケーションを取るのがとても下手でして……。人見知り、と言うと周りから「大人の人見知りなんてない!」と怒られるんですけど(笑)。つい距離感を探ってしまうクセがあります。でも今回はなるべく早い段階で定まったらいいなと。それまでは明るい性格の糸川くんなどに現場の雰囲気作りをお願いできたら! でも良知さんとも話していたんですけど、実は彼もけっこう人見知りだと思うんですよ(笑)。稽古はこれから始まるので、みんなで一緒に頑張っていけたらいいなと思います。
―― 今回、太田さんが座長ですが、ご自身ではどのようなタイプの座長だと思われますか?
太田 確実に「俺について来い!」タイプではないですね(笑)。カリスマというか、背中を見せるというような性格でもないですし……おそらく僕は自分のことで必死なんだと思います。強いて言うのであれば、その作品のテイストや立ち位置によるタイプではないかなと思います。演じるキャラクターの人物像によって自分の居方やテンションが変わるので、その延長線上で現場にいることが多い気がします。僕は器用ではないので割り切れないんです(笑)。今回のメンバーで考えると、部隊(第十六特務隊)の中で上の立場である前田役の中村誠治郎さんが率いてくださるのではないかな? 共演したこともないのに勝手に託してしまって、失礼かとは思うんですけど(笑)。もう僕の中では誠治郎さんが場をまとめてくださる図が見えているので、おそらくそうなるのではないかと思います。僕が演じる栗栖秀太郎もそうですが、そこに居ても居ないような感じの座長になるかもしれません(笑)。座組も作品も、周りのキャラクターが本当に濃いので! その中で自然体な空気感でいるところが栗栖の良さではないかと思うので、その辺りを自分と重ね合わせながら現場でも居られたらいいのかなと思っています。
―― 栗栖秀太郎というキャラクターに抱いた印象について、ぜひお聞かせください。
太田 共感性が高いキャラクターだと思います。周りのキャラクターの見た目や性格が強烈なので、彼らと比べるとごく普通の雰囲気を持っている人物だなと。パッと見ですごく格好良かったり、とんでもない美形ということもなくて、どちらかと言えば垢抜けない印象の好青年。今作では主人公ですが、個性的な他のメンバーに埋もれがちなキャラクターとして演じていくのでも良いのではないかと思っています。
――『MARS RED』のヴァンパイアは、太陽光など弱点も多い上に戸籍を持てない“弱い”存在だとされる一方、強靭な力を持つものとして軍部に利用されています。仰る通り、栗栖は普通の青年に見えますが、国内唯一にして最強の“Aクラス”ヴァンパイアでもあります。
太田 栗栖は意図せずヴァンパイアになってしまったキャラクターで、作中では比較的最近ヴァンパイアになっているんですよね。周りのキャラクターは長年ヴァンパイアとして暮らしていたり、自分がヴァンパイアになったことを割り切って生きている人物が多いので、栗栖はAクラスの強さを持つけれども、ヴァンパイアに成り立ての人物としての温度感を持っていられたらと考えています。人ならざるものになりながらも「人間でありたい」という矛盾や葛藤を栗栖は描いていく存在なのかなと。そこはお客様にも共感していただきやすい部分だと思いますし、立場的にもご覧になる方と一番近いところに居ると思うので、その辺りを意識して演じていけたら。
―― 様々なメディアミックス展開もされている本作ですが、特に意識する点はありますか?
太田 世界観の把握として他の展開作品に触れることはありますが、役作りにおいては基本的に自由だと思って僕はやっています。役者がどういう色を付けていくかは、それぞれに任されていると思っているので。もちろんアニメも拝見しましたが、役作りの中で細かい部分を取り入れようということではなく、この作品が何を色濃く出したいのか……ということを知るための視点で見ていました。僕は脚本を読んだ時の第一印象から膨らませていくことが多いので、後は稽古場で生まれるものを感じ取って、自分として腑に落ちたものをお客様にお届けできればと考えています。
―― 未だコロナ禍ではありますが、今感じていらっしゃることや舞台に関して思うことをお聞かせいただけますか?
太田 難しいですね……。僕は一俳優として舞台上に立って演じることが役割ですが、舞台は企画する方々を始め、本当に色々な方が携わっているものなので。一概には言えませんが、僕としては自分にとって何が大切なのかをあらためて想う良い期間だと捉えています。与えられた演目を一生懸命演じるしかない、ということもありますが、人として生きていくためにも自分の中で演じる意味だったり、お芝居をする意義みたいなことを見つめ直す良い時間にしようと。実際には色々なことを考えますよ。例えば、この状況下で懸命に働いていらっしゃる方々に御礼を言いたいと思っても、この仕事をしている立場として矛盾も抱えているのに、そんな人間が軽々しく御礼を述べていいのだろうか……とか。お客様がいないことには成立しない仕事なので、この状況の中でどうすることが一番の正解なのか、何が正しいことなのかは常に考えていますし、悩みます。でも一生懸命に今あるものと向き合って、誠実にやっていくしかないなと思っています。諦めたり、放棄したら終わりだなと。だから何かしらで希望を持ってやっていくことが大事かなと僕は思っています。美味しいものを食べるとか、楽しい映画を見るとか、ちょっと良い入浴剤を使ったりだとか(笑)。今やれる小さな喜びを見付けて、気持ちを保っていきたいと思っています。
―― ありがとうございました。最後にお客様へのメッセージをお願いします!
太田 世界観が色濃くある作品ですので、この世界観をどういう風に表現していけばお客様に共感してもらえるのか、メッセージとして届けられるのかということを大事にしたいと思います。どの作品においても思っていることですが、上っ面ではないところまでいけたらという意気込みを持っているので、スタッフ、キャスト、生バンドの皆さんと一緒に作っていけたら。まだ落ち着かない日々ですが、劇場にいらっしゃる方々には色んな希望や人としての豊かさみたいなものを少しでも提供できたら良いなと思います。そういう空間を一緒に楽しめるように頑張ります。楽しみにお待ちください。